「このたびこちらの営業1部に異動してまいりました針筵 明日香です。 どうぞよろしくお願い致します。」
「はりむしろ・・・・ヘンな苗字ね。」「フン、あの子にとってここが文字通り“針の筵”にならなきゃいいけどね。」
「そこの二人!なにか質問でもあるの?」 「い、いえ、部長。べつに・・・・」
「さあ、新人紹介はおしまいよ。みんな仕事、仕事!!」

わたしの名は針筵 明日香。 これまで入社以来勤めてきた総務部から異動になり、本日この営業部に赴任した。
みんなの前で挨拶すると、オフィス片隅のコピー機のそばにいた(ちょっとお歳を召した)OL二人がコソコソささやいた。
それをバシッと一喝し一気にお仕事モードにしたのは、凄腕で知られる女営業部長の佐渡 美奈(さど みな)だった。

「針筵さん、あなたのデスクはここよ。 仕事は隣の肝井(きもい)君に教わってね。」
佐渡部長はテキパキとした口調でわたしをデスクへ案内してくれた。
「それから瀬久原(せくはら)課長。 あなたの直属の上司。 これよりあとの説明は課長に任せたわ。」
そう言うと佐渡部長はくるっと向きを変え、キリッとした足取りで自分のデスクに戻って行った。
するとそれを待っていたかのように一人の中年男がわたしの背後にやって来てジロジロわたしの全身を見ながら言った。
「課長の瀬久原だ。よろしく。 それにしても、キミ、いいお尻してるねぇ・・・へッへへへへ」

         

(うっ、なんたる屈辱!)そう思いながらも、「は、はい。針筵です。よろしくお願いします。」とわたしは明るく答えた。
名は体を表すとはよく言ったもので、瀬久原課長はまさに絵に描いたような助平オヤジだった。
「あ、あのぉ~・・・・ボ、ボク、肝井です。 入社3年目です。よ、よ、よろしくっす。」
いきなり隣の席の肝井さんが自己紹介して来た。
                       

                 

わたしはドキッとして振り返り、「針筵です。よろしくお願いします。」ととっさに笑顔を作って挨拶した。
こちらもその名のとおり、かなりキモイ感じの若手で、できれば2メートル以上は接近したくないタイプの典型だった。
ドサッ!突然向かいのデスクで書類の束を荒々しく置く音が聞こえ、わたしは正面を向き直った。
       

「ようやくあたしより若い女子社員が来たわね。これでコピーやお茶くみの仕事もしなくて済むわ。」
「ああ、内勤スタッフの坪根(つぼね)年子くんだ。 こちらが・・・・」 と瀬久原課長がわたしのことを紹介しようとすると、
「知ってるわよ。たった今、そこで挨拶してたじゃない。」 とツッケンドンに言い返したのは、さっきわたしの挨拶の途中
でコソコソ話をしてて佐渡部長から注意された年増OLの一人だった。
「あらためまして、針筵です。よろしくお願いします。」
「フン」 坪根さんは何が気に食わないのか挨拶も返さず、そのまま書類の束の整理を始めた。

とまぁ、わたしの新しい配属先はだいたいこんなところだ。
セクハラ丸出しオヤジと、ムサくてキモくてブキミな先輩社員と、そして性格悪そうなお局OLに捕らえられたわたしに、
過酷な運命がしっかり約束されているかのような初日であった。
でも、わたし、負けないわ!
    

 

※この物語はすべてフィクションであり、登場人物および団体は実在しないものであります。

 

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