うちの会社には社員食堂というものがない。
だから昼食はたいてい近所で外食と決まっていた。
今日は天気も良かったんでいつもの定食屋にランチに行ったが、その帰り道でバッタリうちの課の年増OL坪根さんと
出くわした。
「明日香さん、今夜の予定、覚えてるでしょうね?」 坪根さんはわたしの顔を見るなり聞いてきた。
「今夜ですか? あ、わたしの歓迎会ですね。ちゃんと覚えてます。6時に会社の1階ロビーに集合ですよね。」
「遅れちゃダメよ。あんたが主役なんだからね。 でも、歓迎会だからって、必ずしもあんたのこと歓迎しているとは
限らないわよ。 一応形式だけなんだから。」
どうもこの人はイヤミをひとこと言わないと気が済まないらしい。 ホント、やな感じ。

昼食からオフィスに戻ると、デスクの上に一枚のピンクのメモ紙が置いてあった。
『15:00にSMルームに来ること。 佐渡』 メモには達筆な文字でそう書かれていた。

佐渡部長からだ。 でも部長がわたしに何の用があるのかしら???
「あのぉ、課長。 瀬久原課長。」 わたしはデスクで慎重にハサミを使いながら鼻毛を切っている課長に尋ねた。
「ん、なんだ? 針筵くん。」
「佐渡部長からこんなメモをいただいたんですが、SMルームってどこにあるんでしょう?」
そう言ってわたしは課長に部長からのメモを渡した。
「ああ、SMルームね。 この階の一番北側の倉庫の奥だ。」
「倉庫の奥ですね。わかりました。 ところで、SMルームってなんですか?」 わたしはもう一つ質問を投げかけた。
「セールスミーティングルームまたはスペシャルマーケティングルームの略だそうだ。 俺は横文字弱いから、よくわからんが。」
「はぁ? セールスミーティングルーム。スペシャルマーケティングルーム。 なるほどぉ・・・・」
わたしはそうは言ったものの、なぜか釈然としない気がしていた。

約束の15:00になり、わたしは課長に教えてもらった北側の倉庫の奥へ足を運んだ。
このあたりは窓もなく、接触の悪い蛍光灯が今にも切れそうに廊下を照らしているだけで、昼でも暗く陰気な場所だった。
部屋の入り口にはどこにもSMルームなどと書かれた看板は見当たらない。 本当にここでよかったのかしら・・・

わたしが躊躇していると、いきなりドアの向こうから声がした。
「針筵さんね。 入って。」 それは紛れもなく佐渡部長のクールな声だった。
「し、失礼します。」 わたしは挨拶してドアを開けた。
部屋は小じんまりした応接室のようなつくりで、中央にソファーと低いテーブルが一脚置かれているだけの殺風景な感じだった。
佐渡部長はソファーの横に立ったままで、「そこにこしかけて。」とわたしに指示した。

わたしは言われるままソファーに深々と腰掛けた。 いったいこれから部長がどんなお話をされるのか、ちょっとドキドキ。
「配属になって一週間経ったけど、どう?営業部は慣れたかしら?」
「は、はい。まだ仕事は勉強中ですが、皆さんよくしてくれまして・・・」 わたしは気がつくと心にもないことを口走っていた。
「それはよかったわ。早く仕事を覚えることね。」
そうか、部長はわたしのことを気遣って、仕事の相談に乗ってくれるつもりなのかもしれない。
わたしが勝手にそう思っていると、いきなり背後から両肩に部長の手を感じて驚いた。

「針筵さん。 いえ明日香さん。 あなたとっても可愛いわ。」
「へぇっ?!」 わたしは突然の予想外の部長の言葉に思わず恥ずかしいくらいすっとんきょうな声を上げてしまった。
「からだのラインも素敵よ。」 肩に乗っていた部長の両手が徐々に下に降りてきて、わたしの胸を服の上から包み込んだ。

わたしはなんて答えたらいいのか皆目見当もつかず、ただゾクゾクする嫌悪感を必死に抑えながら黙っていた。
そうこうするうちに、部長の両の指先がわたしの胸元のシャツのボタンをはずしにかかった。

これにはわたしも慌てて、「ぶ、部長!あ、あの、こ、困ります!」と言って、部長の手からからだを逃がした。
とその時、部屋が真っ暗になり、一瞬なんにも見えなくなってしまった。
ほんの2、3秒で再び明るくなったが、わたしはあまりの衝撃にしばらく何が何だかわからなくなってしまった。
「な・な・な・な、なんですか、この部屋は?!!!!!!」

※この物語はすべてフィクションであり、登場人物および団体は実在しないものであります。