今日は午前中からグングン気温が上がり、昼食に外に出たときには38℃に達するという超真夏日だった。
こういう時は社内に食堂がないのは辛いもので、昼食からオフィスに戻るやみんなクーラーの前で涼んでからでないと
仕事に復帰できなかった。
「それにしてもクールビズって、考えるとやっぱり不快よね。こんな日も室内温度を28℃にするなんて、仕事の能率落ち
ちゃうわよ、もう!」と坪根さんはデスクに戻るやウチワで扇ぎながら不平タラタラ。
「こう暑い日は、頭にキィーンと響くようなかき氷がいいですよね。」とわたしが言うと、
「なに言ってるの、ガキじゃあるまいし。こんな日はビールに決まってるじゃない。キンキンに冷えたビールと枝豆。ああ、
ビール、ビール。」 とにかく何につけてもわたしの意見に同意しないのが坪根さんの常だった。
                

そこへ自前のセンスのない扇子をパタパタやりながら瀬久原課長がやって来た。
「ねえ、キミたち。ちょっと頼みがあるんだけど・・・・」 口ごもるところを見ると、どうやらちょっと言いづらい内容らしい。
「課長。キミたちって、いったい誰のこと言ってるの?」 いつもながら坪根さんは課長に手厳しい。
「キミたちというのは・・・今オフィスにいるキミら女子社員のことさ。」
そう言われてまわりを見回すと、たしかに今日は男性陣が全員出払っていて、オフィスに残っているのはわたしと坪根さん
と、となりの営業2課の女性の3人だけだった。
             

「こんな暑い日に申し訳ないんだが・・・実は関西の得意先から大至急商品サンプルを送ってほしいって依頼があったんだ。
今から荷造りして宅配便を手配すれば、明日の朝一には届けられる。その荷造りを手伝ってほしいんだ。」
それを聞いた坪根さんは前よりもっと不快な顔をして質問した。「課長。商品サンプルって、あの倉庫に積んであるやつ?」
「そのとおり。全部で段ボール10箱。すべて倉庫から出してきて荷造りしてくれ。」 扇子をせわしなく動かしながら課長が答えた。
「課長。簡単に言いますけどね、その倉庫って言うのは屋上の掘っ立て小屋でしょ。この炎天下にあそこに行けと?!」

                  

「だから申し訳ないって言ったじゃない。帰りにさ、ビールおごるからさ。ね、たのむよ。」
坪根さんはビールと聞いて渋々立ち上がり、「みんな、行くわよ!」とわたしたちに声をかけた。
オフィスを出る時、坪根さんが振り返り、「あれ?瀬久原課長は作業のメンバーに入らないの?」と疑問を投げかけた。
「えっ?オレ?・・・・オレは歳だし、だいたい五十肩で、腰痛持ちだからムリムリ。」とうまく逃げ切ってしまった。

わたしたち3人が屋上に通じる鉄のドアを開けると、猛烈な陽射しと熱波が顔面に襲いかかって来た。
「ああ、紫外線にやられちゃう!」とか何とか言いながら、屋上の向こう端にあるプレハブの建物をめざして進む。
うちのビルは5階建てだが向かいのビルは10階建てで、各階のオフィスの窓からジロジロ見られているような気がしてならない。

        

「この炎天下に、あのOL3人は屋上で何をやってるんだろう? っていう風に見られてるんでしょうね。ああ、みっともない。」
そう言ったのは、わたしより1年先輩の営業2課の維持和(いじわ)ルイさんだった。
坪根さんが鍵で倉庫の扉を開ける。 それまで閉じ込められていたムッとした息も詰まるような熱い空気が室内から噴出する。
「例の商品サンプルは倉庫の中2階にあるから、わたしが上にのぼって荷物を送り出すわ。 針筵さんは中継役ね。脚立の
上でそれを受け取り、下にいる維持和さんに手渡すのよ。いいわね。」 坪根さんが作業手順をみんなに言い渡す。

わたしは高いところが苦手だったけど、先輩の命令とあらばしかたない。 不安定な脚立を跨ぐように立って、中2階から
坪根さんが送り出す荷物を待った。
「行くわよ!」と身を乗り出して下を見る坪根さんに向かって、「はい!」とわたしは答えて身構えた。
                 

商品サンプルをぎっしり詰めた段ボール箱が手渡される。 うっ、重い! わたしはそれを下にいる維持和さんに手渡した。
そのあと次々と荷物が送られてきた。2箱目、3箱目、4箱目・・・・。5箱目を手渡した時だった。突然脚立がグラッと揺れた。
下を見ると維持和さんが脚立に寄りかかっている。 「ああ、疲れちゃったわ。」
「ダメダメ、維持和先輩!揺らさないで!ああ、キャァッ!!」 わたしはバランスを崩し、あわや落ちそうになって必死に
体勢を立て直し踏みとどまったが、おかげで思いっきり股間を脚立の踏み台部分に打ちつけてしまった。
  

「い、痛ぁ~い!!!」 見ると踏み台部分がヘンに曲がって尖った角が上を向いてるではないか!
そんな騒ぎを知ってか知らずか、中2階の奥からは坪根さんの荷物が情け容赦なく送り出されてくる。
「つ、坪根さーーん、ちょ、ちょっと待ってもらえませんかー!」 わたしはこの不自然な姿勢を直そうとストップをかけた。
「なに言ってるの!この奥はすっごく暑いんだから休んでなんかいられないわ!」 そう言って荷物をわたしに無理矢理
押しつけた。
「ググ・・・ギァアッ!!」 荷物の重みで脚立の尖った角が股間にグッと食い込み、わたしは思わず悲鳴を上げた。
    

それを見た維持和さんは面白がって、今度はわざと脚立を揺さぶり出した。「ほらほら、落ちないように踏ん張ってごらん。」
「あぁ、あぁ・・・やめて下さい、先輩!」 「さあ、どんどん行くわよ。」 さらに手に抱えた荷物の上にもう一つの荷物が乗せられる。
「あらあら、なんだか面白い光景になってきたわね。はははははは・・・」 中2階から坪根さんが顔を覗かせて笑った。
上からの重し責め、下からの揺さぶり責めのダブル攻撃で、わたしは股間の激痛に悶えながら泣き叫んだ。
(い、いったいなんなの、この人たち!! これじゃまるで木馬責めの拷問じゃない!!)
                     

その時、突然倉庫の入り口に人影が立ったかと思うと 「あなたたち、遊んでないで、さっさと仕事を片づけなさい!」
と、ビシッと叱りつける声は、まぎれもなく佐渡部長その人だった。
こうなるとみんな無言でテキパキと作業は進み、あっという間に10箱すべてが床に降ろされた。
            

「坪根さんと維持和さんは、この荷物をオフィスに持って行ってすぐ発送の仕度をしてちょうだい。」 佐渡部長が指示を出す。
「針筵さんはちょっとここに残って。」とわたしには待ての指示。
先輩たちが台車に荷物を積んで行ってしまうと、屋上にはわたしと佐渡部長の二人が残された。
わたしは痛む股間をさすりながら、いやな予感を感じていた。
「明日香さん。 これだけ毎日ひどい仕打ちを受けながら、あなたよく頑張るわね。でもそろそろ限界なんじゃないかしら?
どう?わたしに許しを請うて、奴隷になる決心はついたかしら?そうすればラクになるわよ。」
         

思ったとおりの話の展開だった。
「いえ、わたし、これくらいでは参りません。たとえこの先、どんな辛い目にあっても、やはり気持ちは変わりません。」
正直言うと、部長の推測は当っていた。地獄のような責め苦の日々に、わたしの忍耐はもう限界だった。でも、だからと
言って、部長の奴隷になるのだけは絶対にいやだった。
「わかったわ。見かけによらず強情ね。でもわたしは諦めないわよ。強情な子ほど落し甲斐があるわ。まぁ、せいぜい今の
うちに強がりを言っておくことね。あははははははははははは・・・・」
そう高らかな笑い声とともに部長は屋上から降りていった。
                

わたしはしばらくその場に呆然と立ち尽くしていた。 ああ、まだまだこんな辛い日が続くのかと思うと憂鬱になった。
その時、ポツンと一滴、わたしの鼻の頭に水滴が当ったかと思うと、いきなりザァーーーーーーーッという夕立が!
きゃぁっ、とわたしは雨を避けようと屋上のドアを開けようとした。しかし開かない!中から鍵がかけられている!
それじゃ、と倉庫に戻ると、倉庫の扉も施錠されている!
こうなると屋上には雨をしのぐものはなにもない。
ピカッ、ガラガラッ、ドッシャァーーーーーン!!!!! ものすごい雷が轟音とともに炸裂した。
「だれかぁーー、開けてくださーーーーい!!!」 わたしは懸命に屋上のドアを叩いたが、すべて雷鳴にかき消されてしまう。
   

そう、これも部長の仕打ちってわけね。いいわ、こうなったら、とことん受けて立つわ!
わたしは無駄な抵抗はやめ、豪雨の中、ただひたすら屋上に立ち続けた。
向かいのオフィスの各窓からは、雨の中にズブ濡れになって立つわたしにいやらしい視線が注がれていた。
まるで、磔の晒し刑ね。
でも、わたし、負けないわ!
  

※この物語はすべてフィクションであり、登場人物および団体は実在しないものであります。

 

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