「できたぁーー!」
明日の礼鉄ストアのプレゼンテーションの資料が完成した時、時計の針はもう夜の9時をまわっていた。
「課長!か・ちょう・・・・あれ?」 わたしは資料作りに没頭するあまり、とっくにオフィスのみんなが帰宅したことにちっとも
気づかなかった。

「まったく、無責任だわ、課長も。 “明日のプレゼンは社運がかかってるから完璧を期すように”とか言っておきながら
自分はとっとと帰っちゃうんだから。 まぁいいか。チェックは明日の朝一でお願いすれば。」
わたしは完成した資料を机にしまうと、オフィスの電気を消し会社をあとにした。
『礼鉄ストア創業10周年感謝イヤー』の仕事を受注できれば、向こう1年間ビッグビジネスが約束される。
課長が言うように、たしかに社運がかかった大商談である。
問題はコンペの相手であるライバル会社の握馬(あくま)物産のプレゼン内容だ。
でも、寝る間も惜しんで考え抜いた企画アイデアは我ながらほれぼれするくらい上出来だったし、何より一緒に提示する
ビックリするくらいリーズナブルな見積り価格においても、コンペの勝算は十分あった。
わたしは残業の疲れも忘れて、心地良い充実感に浸りながら駅に向かう夜道を歩いて行った。

駅前はこの時間でもまだ人並みが多く活況を呈していた。
駅の入口に入ろうとしたとき、わたしは突然一人の若い女性に呼び止められた。
「かなりお疲れのご様子ですね。せっかくの美人がそれじゃあ台無しですわ。どうです?ちょっとエステでも。」
どうやら本日オープンしたエステの客引きらしい。

「今日はお試しセール中で無料なの。お時間もとらせませんわ。」
無料と聞いて、わたしは一瞬足を止めた。 たしかに疲れた顔のままでプレゼンに臨むのもよろしくない。
「じゃあ、ちょっとだけ。」
わたしは客引きの女性に導かれ、駅裏の雑居ビルの中へ入っていった。
本日オープンというわりには、なんだか薄暗い陰気な建物で、延々と続く廊下をいくつも曲がり、最後はエレベーターで
なんと地下3階まで連れて行かれた。

すっかり気分が滅入ってしまったが、まぁ無料なんだし、騙されたと思って・・・わたしはそう思うことにした。
エレベーターが地下3階についてドアが開くと、目の前にはこのビルのイメージとはまるで異なる華やかなエステ店の
入口が現れ、わたしはちょっと安心した。
「ようこそ、いらっしゃいませ。」二人の若い女性店員がわたしを愛想良く出迎えてくれた。

二人の店員は手際よくわたしの荷物と上着を預かると、奥のルームへとわたしを案内した。
ルームの中はカーテンで仕切られ、その中に1台のベッドが置かれている。
「さあ、どうぞ、お召し物を脱いで、この上にうつ伏せになってください。」
わたしは言われるままに身に着けているものすべてを脱衣カゴに入れ、生まれたままのからだでベッドにうつむせになった。
一人の店員が腰から下を大きなタオルで覆うと、もう一人が背中にローションを塗りながらマッサージをはじめた。
店員の指や手の平がわたしの凝り固まったからだを優しく揉みほぐしていく。

ひととおり背中のマッサージが終わると、その店員は今度は仰向けになるようわたしに言った。
同じように腰から下をタオルで覆うと、細いコードがついたいくつものパッドを持ってきて、わたしの胸、腹、二の腕、腰など
に吸盤でペタペタと貼りつけていく。そのパッドのひんやりした冷たさがまた肌にたまらなく気持ちよかった。
準備が整うと、店員は傍らの機械にスイッチを入れた。
からだに貼りつけられた何箇所ものパッドから心地良い刺激が全身に伝わり、骨もとろけるくらい極上の気分に浸りだすと
もう一人の店員が両手でわたしの顔をマッサージしはじめた。
(あぁ、この脱力感・・・極楽極楽・・・) 残業続きで疲れていたわたしは、いつの間にか深~い眠りに落ちていった。

「お客様、だいぶお疲れですね。」
遠くで誰か話しかける声が聞こえる気がする。
「お見受けしたところOLさんのようですが、こんな時間までお仕事なんて大変ですね。」
「は、はいぃ・・・」 わたしは夢の中で無意識に答えた。
「明日もお忙しいのかしら?」

「はぃ・・・明日は・・・大事なプレゼンがあって・・・・」 口は勝手に質問に答えているが、心はすっかり天国でくつろいでいた。
「プレゼンの準備は終わったんですか?」
「えぇ・・・終わらせました・・・」
「どんなプレゼンなのかしら?」 頭をマッサージする女性の指先は強くもなく弱くもなく、まさにツボを抑えている感じだった。
「礼鉄ストアさんの・・・10周年企画なんです。」
「お見積りの用意もできました?」
「はぃ・・・素敵な見積り価格が提示できそうです。」
「その企画ってどんな内容で、見積りはおいくらなのかしら?」
「そ、それは・・・・」 とまで口にして、そこでわたしはハッと我に返った。
「な、なに!この質問? あなたたち、エステの人じゃないわね!!」

わたしはとっさにベッドから起き上がろうとして、からだがビクとも動かないことに気づいた。
「い、いったいなんのつもり?!」
「はははははは・・・・お察しのとおり、ここはフツーのエステサロンじゃないわ。 豪紋商事営業1部1課 針筵 明日香。
あなたはまんまと罠にハマッたってわけ。 さあ、礼鉄のプレゼン内容と見積り価格を教えてもらうわよ。」
「プレゼン内容と見積もりですって?! ってことは、もしかして、あなたたち握馬物産の回し者なの?!」
「バレちゃったんなら仕方ないわ。わたしは握馬物産営業チーフの矢良 椎乃(やら しいの)。そしてこの子はわたしの部下
の未鱈 菜子(みだら なこ)。向こうの子は販促課の笛羅 千緒(ふえら ちお)。最強のセールスレディ握馬三人衆よ。」

さっき駅前でわたしを勧誘した笛羅と呼ばれた女性が、わたしのからだに掛けられていたタオルを剥ぎ取りながら言った。
「明日の商談は豪紋商事に負けるわけにはいかないの。」
タオルがなくなり剥き出しになったからだを見てわたしは驚いた。
わたしが夢見心地になっているうちに、いつの間にか全身が太いベルトでベッドに拘束されているではないか!
「これを外して!! いくらなんでも、こんなやりかた汚すぎるわ!」

「何とでも言うがいいわ。 わたしたち3人。たとえどんな手を使ってもコンペに勝てという社長命令を受けてるの。」
「でも、お生憎様。わたしは催眠術なんかで会社の機密情報を喋ったりしないわ。」
笛羅がベッドの脇に立ち、わたしのからだのパッドの位置を順番に貼り変えながらニターっと笑った。
「催眠術では失敗したけど、あなたから情報を聞きだす方法はほかにもあるのよ。」
そう言うと同時に手にしたコントローラーのスイッチをオンにした。
アァァァアアァァァァァァアアァァァァァァーーーーーーーッ!!!!!!

さっきまでの天国のような心地良い刺激と打って変わって、強烈な痛みを伴う電流がわたしの全身を貫いた。
笛羅が貼り変えたパッドの位置は、わたしの乳首、脇腹、股間を的確に捉え、その敏感な部分から鋭い電流が送り込まれてくる。
「どう?さっきのマッサージより、よく効くでしょ?」 わたしの苦痛に歪む顔を覗きこみながら笛羅はダイヤルをさらに回した。
ギ、ギャァァァァアアァァァァァアァアァァァァアァァァーーーー!!
わたしは全身を硬直させ、部屋中に響くほど大きな悲鳴をあげた。
「い、いやよ!!あなたたちなんかに、言うわけないでしょっ!!!」 そう言うのが精一杯だった。

「ほらほらほら、これならどう?昇天するがいいわ!」 笛羅はダイヤルをMAXまで回して固定した。
バチバチバチバチバチバチバチィィィィィィィィィッ!!!
ググァアァァァアアァァァァアァァァァアアァァァァアァァァァーーーーーーーーーーーーッ!!!!!!!
スパークの火花が飛び散り、わたしはベルトがちぎれんばかりにベッドの上でのた打ち回った。

「もういいわ。それ以上やると本当に天国に行っちゃうかもよ。」 矢良が夢中になっている笛羅にストップをかけた。
「千緒。あなたね、いつも言うように、拷問そのものを楽しんじゃダメよ!あくまで自白を得るのが目的なんだからね。」
矢良は部下の笛羅を厳しくたしなめるとベッドの上でグッタリしているわたしを見て言った。
「見た目によらず、けっこう強情な子ね。 方法を変えるわ。準備して。」 と二人の部下に指示を出す。
わたしはほとんど気を失いかけていたが、二人がベルトを外したのを千載一遇のチャンスに、ガバッとベッドから飛び起きた。
そして付近にあったローションをまわりに振り撒くと、笛羅の手からコントローラーを奪い、一気にダイヤルをMAXにした。
スパークした火花がボッ!! とローションに引火し、ルームはあっという間に炎に包まれた。

「ギャッ!!早く消火器、消火器!!」 突然の火の手に驚いた未鱈が叫びまわる。
シュワァァァァァァァァァーーーーーーーーー!!!! 消火器の粉末でルームがもうもうとなる。
その隙にわたしは脱衣カゴから衣服を取り出し、店から脱出することに成功した。
ビルを出て駆け足で駅から電車に飛び乗り、自宅駅に降り立ってはじめてわたしはホッと一安心した。
しかし、ビジネスのためには卑劣な拷問すら辞さない恐ろしいライバル会社を思うと、わたしはいつまでも震えが止まら
なかった。 でも、わたし、負けないわ!

※わたしの知るところではなかったが・・・・・・
任務に失敗して帰社した握馬三人衆を待っていたのは、女社長 麗図 美杏(れいず びあん)の厳しいお仕置きだった。

※この物語はすべてフィクションであり、登場人物および団体は実在しないものであります。