「サムライ男はわたしを部屋から引っ張り出すと、わたしの両手を後ろ手に縄で縛りあげ、「ついて来い!」と命じた。
わたしが連れて行かれた先は、板戸で囲まれ床に砂利を敷き詰めた広間のような部屋だった。
「オイ、そこに座れ!」とサムライ男に言われ、わたしはその広間の中央に正座させられた。

「あのぉ、すみません。この砂利痛いんですけど、椅子かなんかありません?」 わたしは恐る恐る聞いてみた。
その時、太鼓の音が鳴り響き目の前の縁台の上に立派な着物を着たチョイえらそうなお侍さんが登場した。
「コラッ!お奉行様のお出ましだ。頭を下げんか!!」 サムライ男は地面に額がつかんばかりにわたしの頭を抑え込んだ。
「うっ・・・」 砂利が膝にめり込み、痛いのなんのってありゃしない。
「その方か、主人殺しの下手人とは。」 縁台のお奉行様と呼ばれたお侍さんが妙にかん高い声で言った。

わたしがとぼけて辺りをキョロキョロ見回していると、厳ついサムライ男がまたまたわたしを叱り飛ばした。
「お奉行様はオメェに尋ねておられるんだぞ!答えろ!」
「えっ!わたし?わ、わたしが主人殺しですって!??い、いったい何のことかさっぱり・・・・・・・」
「ほほぉ、シラを切るつもりか。この鬼すら恐れる牢屋敷に捕らえられ、なおも強情を張るとは、その方なかなかいい度胸だな。」

お奉行様はこの先の面白い展開を思い浮かべているかのようにほくそえみながらわたしに言った。
「しらばっくれるんじゃねぇ!太物屋奉公人お明日。オメェが主人の世句 腹左衛門(せく はらざえもん)を殺したことは、
とうに調べがついてるんだ。素直に罪状を認めた方が身のためだぜ。」
「お、おあす?お明日ってわたしのこと??? 主人の世句 腹左衛門?? 殺した???!」
わたしは次々に飛び出してくる意味不明な言葉にただただあっけにとられるだけだった。
「わたしはお明日なんかじゃありません!それに世句 腹左衛門なんて人知りませんし、殺しなんかしてません!」
状況的に何だかかなりマズイ方向に向かっていると感じたわたしは必死に誤解を解こうとしたが、お奉行様もサムライ男
もわたしの言い分なんかハナから信じていないようだった。
「いたしかたない。耳に聞いてダメなら体に訊くまでだ。オイ!」 お奉行様がサムライ男に命じると、手下風の冴えない
男が長い棒状のものをサムライ男に手渡し、わたしの着物の背中をビリビリッと下まで引き裂いた。
「キャァァァッ!」 (これってマジヤバじゃないの? これじゃトラベルじゃなくってトラブルだわ!!!)

「ちょ、ちょっと!待ってください!これ絶対なんかの誤解です!わたしはただタイムトラベルしに来ただけなんですから!」
「たい・・むと・・らべる? ますます怪しいおなごだ。もしかすると余罪もあるやも知れん。」
し、しまった! わたしの弁解はお奉行様の不審をさらに強めてしまったようだ。
「オレの箒尻は厳しいぜ。覚悟しな!!」 サムライ男は両手の平にペッと唾を吹きかけると棒を握り大きく振りかぶった。
パシィィィィィィィッ!!
ビシィィィィィィィッ!!
ひぃぃぃぃぃぃぃ!!!!!!!

男が箒尻と呼んだ棒がわたしの剥き出しの背中を強烈に打ち据え、わたしは思わず大きな悲鳴を部屋中に響かせた。
ビシーーーーーーーン!!
バシーーーーーーーン!!
きゃぁぁぁああぁぁぁああぁっ!!い、痛いーーーっ!!や、やめてぇ~!!!
「ならば白状するか?!」 サムライ男は打つ手を休めることなくわたしに尋ねた。

「だから、やってません!わたしじゃありません!」
ビシィィィィィィィッ!!
パシィィィィィィィッ!!
うぁあぁぁぁああぁぁぁあぁあぁぁぁ!!!
「見かけによらずしぶといヤツめ!」 ますますサムライ男の打つ手に力が入る。
「か、課長!は、博士~!!なんとかしてくださーーーい!!!」 わたしは大声で泣き叫んだ。

「課長、博士とはいったい何者だ?!もしや仲間が他におるのか?言えっ!!」
何を言っても逆効果になってしまい、そのまま箒尻の責め問いは延々と続けられたが、しまいにわたしは気を失ってしまった。
「気を失いおったか。だが、このおなごやはり怪しい。 この先は拷問蔵で徹底的に吟味いたせ!おなご一人責め落せなかっ
たら、吟味方与力の名が泣くぞ。よいな!」
「ははぁっ!しかとかしこまりました。」

「い、痛ぁ-------------いっ!!
両腕のつけ根のあまりの激痛に、気絶していたわたしは一気に正気に戻された。
見ると両腕両足を背中で一つに縄で縛られ、その格好のまま天井から吊るされているではないか!!
場所もさっきの明るい広間とまったく違って、恐ろしく陰気で暗い蔵の中である。
わたしの目の前に例のサムライ男が現れた。

「ふふふふふ・・・この駿河問いで白状しなかったヤツは今まで一人もいねぇ。オメェも五体満足なうちに吐いちまった方が
いいぜ。」
「お、お願いします!下ろしてください!て、手が・・・・・・」 わたしは痛みに耐え切れず泣きながらサムライ男に頼んだ。
「主人殺しを素直に認めれば、すぐにでも下ろしてやるさ。さぁ、どうだ?白状するか?!」
「認めたら、許してくれるんですか?」
「ああ、オメェが罪を認めたら、この駿河問いは止めてやる。だが、主人殺しは重罪だから、磔か鋸引きの極刑は免れめぇ。」
「そ、そんなぁ・・・・。それじゃぁ認めるわけにはいかないじゃないですかぁ!!!」 結局どっちも地獄に変わりはない。

するとサムライ男は手下に大きな石を持ってこさせた。
それがわたしの背中に乗せられることは容易に想像がついた。
そんなもの、この状態で背中に乗せられたら、背骨が折れてしまうに違いない。
「さあ、いってぇどっちを選ぶ?拷問か死刑か?さあ、さあ、さあ!!!」サムライ男は石を持ち上げながら迫った。
「どっちも、イヤァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァーーーーーーーー!!!!!!」

わたしが江戸の街中に響き渡るくらい大きな声で叫んだその時だった。
再びわたしの周りに強烈なスパークが発生し、一瞬目の前が真っ白になった。
気がつくとわたしは元の研究室のトイレの中にいた。
拷問蔵もサムライ男も見当たらない。その代わりにわたしを見つめる課長と博士の顔があった。
「どうじゃ?夢の時間旅行は楽しめたかね?」博士がニコニコしながらわたしに尋ねてきた。
「な、な、な、なんですか!この機械は?!わたし危うく殺されかけたんですよ!ひど過ぎます!!」

「ん?お気に召さなかったようじゃな。先に言い忘れたが、この機械はまだ実験段階で、旅行の企画も“大江戸女囚体験
ツアー”しかできてなかったんじゃ。」
「そ、そんな企画、誰が好んで行くもんですか!!」さすがのわたしもブチ切れて怒鳴った。
「いやいや、世の中けっこうその手の趣向をお持ちの方がおられるんじゃよ。」
「たしかにそうかも知れませんが、少なくともわたしはまったくそういう趣向は持ってません!今度っから実験台にはそういう
人を使って下さい!」 わたしは呆れ果ててしまった。
すると瀬久原課長がわたしに近づき、そっと耳打ちした。
「ええぇーーーーーーーーーっ!!もう一回?! いくら約束だろうが、命令だろうが、社運がかかっていようが、絶対イヤです!!!」

そんなわたしの言葉も軽く聞き流され、マシーンは再び動き出した。
「こ、今度はいったいなんのツアーなんですか?!」 機械がスパークしはじめる中、わたしはそう尋ねるのが精一杯だった。
「試作品第2弾の“中世ヨーロッパ魔女裁判体験ツアー”じゃ。またあとで感想を聞かせてくれ。」
「もう、いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーー!!!!!!」
スパークがますます激しくなり、わたしの意識は徐々に遠のいていく。
次のタイムトラベルは前回のよりさらにハードに違いない。
でも、わたし、負けないわ!

※この物語はすべてフィクションであり、登場人物および団体は実在しないものであります。