「おい、針筵くん。水曜の夜、お得意さんの接待があるんだが・・・・手伝ってもらえんかね?」
わたしが外回りから帰社するや否や、瀬久原課長が待ち構えていたように問いかけてきた。

「水曜の晩ですか?えぇっとぉ・・・特に用事はなかったと思いますから・・・ええ、大丈夫ですよ!」
わたしはバッグをデスクに置きながらとっさにそう答えた。
「ああ、よかった。坪根くんも営業2課の子たちもみんなその日は都合が悪いからって断られちゃったんだ。 どうしても女性に来て
ほしいって時極フードの根倉(ねくら)社長に頼み込まれてるんでね。いやぁ助かった。キミはいざってとき、ホント頼りになるなぁ。」

そこまで言われると、そういやな気分でもない。 と思いつつ、ふと手帳を開いてみると・・・・・
たしかに水曜の晩は予定は入っていない。でも、水曜の晩って・・・年に一度のクリスマスイブじゃない!!!

あぁ~っ、しまった!と思ってももう後の祭り。 今さら断るわけにもいかない。
ま、いいか。どうせ予定ないんだし。 わたしはちょっぴり淋しい気分になったが、一人ぼっちのイブを仕事で紛らわすのも悪くない
かなって前向きに思うことにした。
そして当日、午後5時に会社のロビーに集合すると、そこには瀬久原課長と一緒に、伊闇、肝井の両先輩もやってきていた。
なにかとても大きな白い布袋を引っさげている。

「あれ、先輩たちもご一緒ですか?それにしてもその大きな荷物は???」
「ああ、これね。クリスマスプレゼントさ。根倉社長んとこのお子さんのね。」と伊闇先輩。
「へぇー、気が効くんですね。お子さんへのクリスマスプレゼントだなんて。」 わたしはちょっと先輩たちを見直した。
そして、わたしたちは肝井先輩が運転するワゴン車に乗って、師走の町を一路根倉社長のご自宅に向った。
車のラジオからはわたしの大好きなビング・クロスビーの「ホワイトクリスマス」が流れてきて、だんだんムードも盛り上がってきた。

そんなムードをブチ壊すかのように、瀬久原課長が本日の接待のポイントを説明しはじめた。
「今夜の接待は、来年度のビッグな取り引きがかかっている大事な仕事だ。絶対に失敗は許されない!何が何でも社長に喜んで
もらわないといけないんだ。わかってるな!」
わたしたちは無言で課長の言葉にうなづいた。

「オレは根倉社長のご夫妻と会食するから、オマエたちはお子さんの相手をしてくれ。荷台に積んでる箱を見ろ。ちゃんと仮装の
用意もしてある。お子さんが気分を損なったら、そこで商談はパァだ。それだけ重要なミッションだと言うことを肝に銘じろよ!」
荷台の箱を覗くと、なんとそこにはサンタとトナカイの衣装があるではないか! ヘェ、なるほど。準備万端なんだ!

そうこうしているうちに、ワゴン車は根倉社長の豪邸の前に停まった。
「よし、さっそく仮装するんだ。伊闇と肝井はトナカイ。針筵はサンタだ。いいな!」
わたしたちは課長の指示のまま、それぞれの衣装を身につけた。
トナカイはすっぽり全身が隠れてしまうほどの着ぐるみなのに対し、サンタはやけに露出部分が多いのが気になったが、命令なので
渋々わたしは着替えを済ませた。

「じゃあ、オレは社長のところに行くから、あとは伊闇、キミにお子さんチームは任せたぞ。例の段取りどおりにな。」
「了解です。例の段取りですね、課長!任しといてください!」 伊闇先輩がトナカイの中から元気に言った。
仮装したわたしたちの愉快な姿を見渡し、お子さんがワーイ!って喜ぶ微笑ましいシーンをわたしは思い浮かべた。

豪邸の大きな門から入ると、どうやらお子さんの部屋は離れの別棟にあるらしく、伊闇先輩が着ぐるみのままズンズンとそちらに向っ
ていく。 大きな袋を引っさげた肝井トナカイとサンタ姿のわたしもそのあとに続く。
ドアの前に一旦立ち止まると、伊闇先輩がわたしたちの方を振り向いて言った。
「よし、いっせいのせ!で、メリークリスマス!って言うんだぞ。」
「行くぞ!いっせいのせっ!」伊闇先輩がドアを開ける。 みんなで「メリークリスマス!」と大声で言いながら中に入る。

「あれ!?な、なにこれ?!」 わたしは家の中に入ってビックリした。 なんと中は灯りもともさず真っ暗だったからだ。
いや、そうじゃない。よく見るとだだっ広い部屋の奥にポッと小さな明かりが見える。
「せ、先輩・・・・いったい、なんなんですか、これ?」 わたしは急に心配になって伊闇先輩に尋ねた。

「いいから、いいから、気にせずフツーに明るく振舞え。ちょっと変わった子だけど、絶対に機嫌を損ねることないよう、どんなことでも
ハイハイって言われるとおりにな!」
「わ、わかりました・・・・」 わたしは事情がよく飲み込めなかったが、社運を賭けた大事なミッションだということを思い出して答えた。
そしてわたしたちはあらためてもう一度「メリークリスマス!!」って陽気に叫んだ。
それでも、部屋の奥からはなんの反応もない。 ・・・・・もしかして、不在???
その時、突然明かりがこちらに向かって近づいてきた。
間近に迫ってきた明かりの中に浮かび上がったのは、歳のころは二十歳くらいの見るからに不健康そうな青白い顔の青年だった。

青年はにこりともせず、「ああ、クリスマスプレゼントか。あれは持ってきたんだろうね?」とわたしたち一行に向かって言った。
「あ、あれ?あれって何です?」とわたしは小声で伊闇トナカイに尋ねた。
「バカっ!いいから、サンタは知ってるフリをしてろ!」と伊闇トナカイが小声で返す。
「あ、あれね。も、もちろん、持ってきたわ!」 わたしはとっさに青年にそう答えた。
それを聞くと青年はニタリと無気味に笑ってドアに鍵をかけ、わたしたちを部屋の奥に案内した。

「じゃあ、さっそく見せてくれよ、プレゼントを」 青年は椅子に腰掛けると待ちきれないように急かして言った。
わたしは大きな布袋の口を開け、プレゼントを取り出そうと中に手を突っ込んだ。
ん?なんだかいろいろ入ってる・・・・でも、不審な顔をするわにもいかず、わたしはニッコリ笑ってその中の一つを取り出した。
「はい!いい子にプレゼント!」そう言って青年に手渡したものは、クリスマス飾りによく使われている柊の枝だった。
クリスマスツリーのオーナメントか何かかしら・・・・・?

青年は無言でしばらくその柊の太い枝をしげしげと眺めていたが、おもむろに立ち上がりトナカイたちに言った。
「おいトナカイ。準備するんだ!」 すると伊闇・肝井の両トナカイは「わかりました!」と返事してすぐに行動を開始した。
じゅ、準備って?いったい・・・・・
わたしが唖然として立ちすくんでいると、いきなり二人のトナカイがわたしの両手を左右からつかみかかってきた。
「ちょ、ちょっと、せ、先輩!なにするんですかぁ?!!」
わたしはビックリして手を振り払おうとしたが、ギュッと握られた手はビクともせず、さらにトナカイたちはわたしのサンタの上着を脱がし
にかかったもんだから、わたしは思わず「や、やめてください!!」って大声で叫んでしまった。

わたしを抑えつける伊闇トナカイが耳元で言う。「バカッ!言われるままにしろって言っただろ!坊ちゃんが機嫌を損ねたらどうすんだ。」
「で、でも・・・・」そんなことを言っている間に、みるみる上着もブラジャーも剥ぎ取られ、わたしは両手を広げて前に突き出すような格好
のまま壁に取り付けられた手枷に縛りつけられてしまった。(な、なんで、こんなとこに手枷があるのよ?!!!)
するとトナカイたちはわたしの両足を大きく開き、左右からしっかりと手で抑え込んだ。「準備完了!」 なんたる手際のよさ!!

わたしは青年に背を向けるような体勢になってしまったが、その剥き出しの背中にチクッと何かが触れた。
「痛いっ!」 振り返ると青年がさっきの柊の枝でわたしの背中をゆっくりとすべらすようになぞっている。
わたしはいったいこれから何が始まるのかまったく見当もつかず、ただただ恐怖と緊張で心臓が口から飛び出しそうになっていた。

※この物語はすべてフィクションであり、登場人物および団体は実在しないものであります。