倉庫の中は薄暗く、ほこりっぽく、その上かなりカビ臭かった。
それもそのはず、この地下倉庫には古い資料しか保管されていないので、めったに訪れる人はいないのだ。

「突然20年前の契約書を探せって言われたって・・・・・。どこにあるのか誰も知らないんだから、困っちゃうわ。」
大手アパレルメーカーの土佐草(どさくさ)商会と20年ぶりに契約を交わすことになったので当時の契約書を確認したい、だなんて
佐渡部長も気軽に言ってくれるわ。ちょっとは探す身にもなって・・・ あっ!!
ドカッ! ドドドドドドドドドドーーー!! きゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーーー!!

棚の上の段ボールを降ろそうとしたわたしは、うっかり棚板を壊してしまい、上から雪崩のごとく段ボールの山が崩れてきたのだ!
「ひぇーーーーっ!!この散らかった資料、ぜんぶ片付けなきゃぁ!!」
しばらくあたり一面まき散らかされた書類の山を呆然と見つめていたわたしは、その中に土佐草商会の契約書を偶然にも発見した。
「あ、あったぁー!!」 契約書のファイルを拾い上げたわたしは、さらにその下に1冊の赤いカバーの本があるのに気がついた。

「あら、なにかしら?資料じゃないみたいだけど・・・」つい気になってその赤い本を手に取ってみると、それは個人の手帳のようで
どうやら厳重に鍵で封印してあったらしいが、時間経過とともにすっかり劣化してしまっていたため簡単に開くことができた。
日付を見るとちょうど20年前だ。 (いったい誰の???) そう思って手帳の裏を見るとそこに小さくMSの文字が。
「MS・・・・?きっと頭文字ね。MS、MS、MS・・・ミナ・サド! あっ、もしかして佐渡部長のもの?!」
そう思った瞬間、わたしの頭の中に今日のお昼の他愛もない会話の記憶が蘇えってきた。

昼食を他の部のOLたちととっていた時のことだ。
「明日香んとこの営業1部。今年も成績一番で表彰されるんでしょ。金一封出るし、うらやましいわ。」と人事部の根田皆子(ねた
みなこ)が溜息をつく。
「わたしも知らなかったけど、5年連続1位らしいわ。」とわたし。

「やっぱり佐渡部長の手腕かしら?それに比べてうちの営業3部の福路部長の頼りないこと!」と営業3部の具地裕子(ぐち ゆうこ)
がぼやく。
「あら、福路浩二(ふくろ こうじ)部長でしょ?優しそうで素敵なおじさまって感じで、わたしは好きだなぁ。」とわたし。
「なに言ってるの、営業は気迫と個性がないとダメよ!見て御覧なさい、おたくの佐渡部長の迫力。ああでないと。」と裕子。

「佐渡部長のあのすごさは、長年の営業現場での叩き上げの賜物かしらね?」とわたしが想像しながら言うと、
「あら、知らないの?佐渡部長は中途入社よ。」と皆子があきれたように言い返した。
「えっ、中途入社?それじゃあ前は何のお仕事してらしたの?」わたしには初耳だった。
「実はね、それがよくわからないの。どこをどう調べても何故か記録がないのよ!」と詮索好きな人事部の皆子は言ってから、急に
小声になって言葉を続けた。

「一説によると、何かあぶない仕事してたって。そして某方面の大きな力で、うちの会社にすんなり転職したらしいって噂よ。」
「あぶない仕事?某方面?いったいなにそれ?そんな人じゃないわ。」 わたしは佐渡部長の顔を思い浮かべながら一笑に伏した。
ランチの会話はそこまでだったが、今赤い手帳を見ているうちに、急に佐渡部長の過去について無性に知りたくなってきた。
散らかった書類の片付けもそっちのけで、わたしは恐る恐るその赤い手帳の1ページ目をそっと開いた。

○月×日、M国国境線。
救出ヘリが待つ脱出ポイントまであと数百メートルといったところで、突然敵の追跡部隊が発砲してきた。


「ミーナ、すまない!俺がドジ踏んだばかりに、こんな追われるハメになってしまって。」 走りながらジョシュアが私に言った。
万事順調に推移した諜報活動の最後の最後に、警備兵にうっかり母国語で挨拶をして正体がバレてしまったことを詫びているのだ。
「済んだことは言うな!今はとにかく脱出することだけを考えろ!」私は走りながら怒鳴り返した。
(な、なに、これ?!日記なの?それともスパイ小説?!)わたしは赤い手帳の意外な書き出しにびっくりした。

「うっ!やられた!」 モーゼスが叫んで転倒した。
「くそっ!」私はうずくまるモーゼスの元へ駆け戻り、「しっかりしろ!」と言って抱き起した。撃たれたのは肩だ。走ることはできる。
目標地点まであとわずかだというのに・・・・・。 私は意を決して二人の異国の男たちに言った。
「ここは私が防ぐ。その間に迎えのヘリまで突っ走れ!」

「し、しかし!ミーナ。君は・・・・・」
「私のことは気にするな!あんたら二人を無事に出国させるのが私の任務だ。ここで入手した情報がH国に確実に届けば、革命軍
への支援は完璧なものになる。頼んだぞ!」
追っ手の銃撃が激しさを増してくる。「行けーーーー!!」二人がダッシュすると同時に、私は銃を構えて猛烈に撃ちまくった。
ダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダーーーーーーーー!!!!

追跡部隊は一瞬躊躇したが、それでもじわじわと包囲を狭めてくる。
少しでも時間稼ぎができればそれでいい。多勢に無勢。やつらを完全に撃退することが不可能なことは承知の上だった。
そしてついに弾丸が尽き果て観念する時が来た。
振り返ると遥か向こうに飛び立つヘリが見えた。(よし、逃げ切ったか・・・・・)


その瞬間、(たぶん銃尻の)強烈な一撃を後頭部に受けた私は、それ以降の記憶がふっとんでしまった。
(うわぁー!佐渡部長、いや、ミーナはいったいどうなっちゃうの!?)わたしはすっかり仕事を忘れて夢中で手帳のページをめくった。

私は冷たく固い床に叩きつけられてようやく正気に戻った。
あたりを見回すとそこは窓もなく四方を剥き出しのコンクリートの陰気な壁に囲まれた部屋だった。

天井の中央から垂れ下がった裸電球一つが唯一の照明だったことも部屋の陰気さを増すのに一役買っていた。
後頭部を殴られ気を失った私はそのまま連行され、この部屋に放り込まれたのだろう。
体のいたるところに鋭い痛みが残る上、後ろ手に手錠らしき物で拘束されているため立ち上がるのもままならない状態だ。
そこへ突然数人の屈強な男たちがドカドカとやってきて、私の髪を鷲掴みにして無理やり立たせたかと思ったら、いきなり強烈な
パンチを浴びせてきた。
ドスッ!バスッ!ウグッ!ボゴッ!ガツッ!ドスッ!ゲッ!バスッ!ボゴッ!ガツッ!グァッ!
私は顔面に腹に背中にパンチやキックを受けるたびに弾き飛ばされ、また立たされるとパンチの嵐といった具合に、まさにサンドバ
ッグ状態で文字通り足腰が立たなくなるほど叩きのめされた。




ゲホッ、ゲホッ、ゴホッ!
男たちの攻撃がようやくおさまった頃には、胃液と血反吐を吐きながら私はうつ伏したまま動くこともできなかった。

「そのへんでいいわ。まだ殺すわけにはいかないの。柱につないでちょうだい。」 背後から女の声がすると、男たちは無言で私を
部屋の中央まで引きずっていき再び髪を掴んで乱暴に立たせると手錠を解いて両手足を柱に拘束しなおした。
全身が打撲の塊となって痛むと同時に、体の何箇所かに別種の焼け火箸で抉られるような痛みを感じる。
恐らくあの時何発か銃弾を受けたのだろう。

「手荒い歓迎で悪かったわね。」 そう言いながら私の視界に姿を現したのは、先ほど男たちに指示した女だった。
「銃弾を受けて死んだと思ったでしょ?でもあなたの強靭な肉体は死を克服したわ。もっとも、あの場で死んでた方があなたにとっては
ラッキーかもしれないけどね。どういう意味かおわかりでしょ? おほほほほほほほほ・・・・・」
目の前で無気味に笑う女は明らかに私と同じ日本人だ。 もしや、こいつが噂の“イエローデビル”か?

「さあて、反乱軍の娘さん。あなたのお名前と所属、そして逃した二人の男性の正体と彼らが掴んだ情報。それを教えてちょうだい。」
「・・・・・・・・・・・・・・・・」 私は無言を貫いた。
「あら、反乱軍って呼んだのがお気に召さなかったのかしら?あなたたちは革命軍って称しているみたいだけど。」
「・・・・・・・・・・・・・・・・」
「おい!大人しくしてりゃ調子に乗りやがって!さっさと白状すんだよ!」 女はいきなり態度を豹変させると、私の顔面や胸、腹を
金属パイプで滅多打ちにしはじめた。
ドカッ!ボクッ!バシッ!ドスッ!ガツッ!バキッ!ボカッ!

「フゥフゥフゥ・・・どう?少しは堪えたかしら?」 そう言って女はうな垂れる私の顎に鉄パイプを当てるとグイッと持ち上げた。
「どうやらまだ足りないみたいね。その憎悪に燃える目が何より物語ってるわ。」
「き、貴様ら・・・国民を蹂躙する独裁政権は・・・・長くは続かない!ハァハァハァ・・・・」私は口から血反吐を吐きながら、精一杯の抵抗
の意思を示した。
「あら、口が聞けるんじゃない。でもそれは質問の答えじゃないわね。 いいわ、正しい回答を聞かせてもらうまで、徹底的に質問
するわ。あなたの体にね。」

女は無言で私のタンクトップの首元に手を突っ込むと、一気に下まで切り裂き、すかさず今度は左右にビリビリっと破り捨てた。
それまでタイトなシャツでピッチリ抑えられていた私の乳房が、突然の解放で弾けるように前方に飛び出す。

「ほぉ、思った以上に見事なおっぱいだこと。乳首もきれいなピンク色で素敵じゃない!」
女は私が身動きできないのをいいことに、両手の指先で左右の乳首を摘みながら舌なめずりするように言った。
「うっ、くくく・・・・・」私はこの屈辱に耐えると同時に、無防備な胸を敵に曝け出す恐怖心を必死に抑え込もうとした。
「ほらほら、こんなに硬く立ってきたわよ。なかなか感度よさそうね。」 女の指先の刺激で乳首がツンとなるのが私にもわかった。

頃合を見計らって女は部下の兵士に筒状のものを持ってこさせた。
筒の上からは無数の金属製の細長い棒が頭を出して鈍い光を放っている。
その1本を女がスゥーーーッと抜くと、20cmほどもある細長い金串が全容を現した。
「これをどう使うか、察しのいいあなたならきっとおわかりでしょ。自慢のおっぱいが穴だらけにされたくなかったら、素直に質問に答
えることね。」
「ちょ、ちょっと!やめなさいよ!ミーナをいったいどうする気なの!!」 気がついたらわたしは思わず手帳に向かって叫んでいた。

※この物語はすべてフィクションであり、登場人物および団体は実在しないものであります。