
身震いするような寒さに目を覚ましたわたしは、そこが見知らぬ薄暗いガレージのような場所であることに気がついた。
ついさっきまで氷見子と居酒屋でおいしい料理を楽しんでいたはずなのに・・・・。

そうだ、お猪口をグイッとあけたとたんにめまいがして、わたし、倒れてしまったんだわ。 それにしても、ここはどこなの????
「おやおや、ようやくお目覚めかね。さぞうまいものを食べたようだな。とっても幸せそうな寝顔だったぜ。はははははは・・・」
暗闇から男性の声がして、わたしはハッと身を起そうとしてびっくりした。
なんと、手足をロープで縛られたまま椅子に座らされていたのだ。 い、いったい、なに、これ?!どういうこと?!

ほの暗い照明に照らされて声の主の男がわたしの前に姿を現した。
一見して堅気の人間でないことがわかった。
「わ、わたしをどうする気なの?!」
「おまえさん、仁悶商事と俺たち北極白熊組の関係を探ってるそうだな。困るんだよ、余計なことされるとさ。仁悶さんは俺たちの大事
なスポンサー様なんだからよ。」

「北極・・・白熊組?なにそれ?旭山動物園かなんかの関係者?」
「ほほぉ、しらばっくれる気かい?いい度胸してんじゃないか!北極ってのは北海道極道連合の略だ。 それより、あんたがどこまで
証拠を握っているのか、さあ、教えてもらおうか。」
その時、部屋の隅の暗がりから別の男が現れた。
「親会社の命令だから親切に便宜を図ってやったのに、その恩も忘れ、こそこそ泥棒ネコみたいなマネしやがって。痛い目に遭いたく
なかったら、うちで掴んだ証拠を全部出すんだな。」 な、なんと、仁悶商事社長の槍手強気ではないか!!

「わ、わたしは・・・・ただ、営業の出張で・・・・」とわたしがしどろもどろで言いかけると、
「やめとけ、そんな見え透いたウソは。こちとら全部わかってるんだ。おまえの正体をな!」 槍手社長はビシッと言った。
でもわたしが本当に驚いたのは次の瞬間だった。 わたしのうしろから今度は聞き覚えのある女性の声が響いてきたからだ。
「針筵さん、あなたちょっと飲みすぎたみたいね。全部私に教えてくれたじゃない。匿名の告発文も、あなたの出張理由も。」
それは紛れもない氷見子の声だった。
「迂闊だったな。氷見子は俺の愛人さ。おまえから偶然にヤバイ話を聞いたものだから、機転を利かし告発文の書き手を装って
睡眠薬を酒に混ぜておまえを眠らせ、俺に連絡してきたんだ。ありがとな、氷見子。」 槍手社長は氷見子を抱き寄せながら言った。

「さあ、もう観念してすべてをゲロしちまいな!」 白熊組の幹部らしき男がドスをきかせた声でわたしに迫った。
「い、いやよ!あなたたちみたいな会社を食い物にするような連中に協力なんかしないわ!」

白熊組の男はヤレヤレというジェスチャーをすると部屋の奥に向かって顎で合図を送った。
どこからともなく数人の怖そうな男たちが現れ、抵抗するわたしの体を抑え込むと、あっという間に衣服を剥ぎ取ってしまった。
「せっかく北国に来たんだから、北国ならではの歓迎方法で接待してやるよ。」
上着、スカートにブーツ、パンストまで脱がされ下着姿のまま縛り直されたわたしは、早くも寒さに歯がガチガチ鳴り始めていた。

男たちがガラガラガラッと壁のシャッターを押し開ける。 その外は薄明かりを反射してキラキラ光る一面の銀世界だった。
「ど、どうするつもり!?」
男たちは問答無用でわたしの体を屋外に運び出し、雪の上に立てられた一本の太い杭に縛りつけた。
身を切るような冷たい雪混じりの風がわたしの髪と薄っぺらい下着をヒラヒラなびかせる。
ヒィィィィィィィーー!!さ、寒~い!や、やめてーーー!!! わたしは大声で叫んだ。

「だったら入手した情報を吐くんだ!そしたら暖かい部屋で熱々のコーヒーでも飲ませてやるぜ。」 槍手社長たちはストーブに手を
かざしながら言った。
「・・・・・・・・・・だ、だめ!それは・・・・・・言えないわ!」 歯の根も合わないわたしは、やっとの思いでそう言い返した。
「どうやら歓迎が足りないみたいね。」 氷見子はそう言うと、そばにあったバケツを手にしてわたしに近づいてきた。
「寒井さん、や、やめて・・・・お願い・・・」
「さあ、あなたが希望していた“地元の名物”よ。」 そう言いながらバケツの水をわたしの頭の上からザザァーーーッと浴びせた。
ひゃぁぁぁぁぁああぁぁぁああぁぁぁあぁぁあぁあぁぁぁぁーーーーーっ!!!

濡れた下着がペットリと体にまとわりつく。そしてそれが見る見る凍り始めた。
手足の指先がちぎれるほどに痛い。
泣きたくても涙も凍りつく酷寒地獄にわたしはただじっと耐えるしかなかった。
「このままじゃ全身氷づけになって凍傷になってしまうぞ。おい、少し氷を取り除いてやれよ。」 しばらくわたしの様子を見ていた槍手
社長が氷見子に指示を出した。
氷見子はしぶしぶストーブのそばを離れ、今度は手に乗馬鞭を持ってわたしの前に立ちはだかった。
「お優しい社長の心遣いよ。冷え切った体を温めてあげるわね。」 そう言うと鞭を大きく振りかざした。
ビシッ!バシッ!ビシィィィィィィィーーッ!!パッシィィィーーン!!
キャァアアァァァ! ヒィィィィィィッ!! アゥッ! ギャァァアァアァァーーッ!!!
わたしは上体をよじりながら悲鳴を上げた。

わたしの体から氷の破片が飛び散り、やがて下着もズタズタに切り裂かれると、足元の雪の上を赤い血が点々と染めていく。
「ほんと、しぶとい子だね。いいかげん吐いちゃいなよ!どうせ安月給しかもらってないのに、どうしてそこまで会社に忠誠を尽くすか
私にはわからないわ!」 鞭の手を休めることなく氷見子は私に向かって言った。
「ハァハァハァ・・・・会社への忠誠じゃないわ・・・・不正なことが・・・嫌いなの・・・・・・ハァハァハァ・・・・・そういう人が・・・許せないの!」

その言葉に氷見子は鞭の手を止め、しばらく考えてから言った。
「今のあなたの言葉、どこかで聞いた気がしたと思ったら、そう、3年前にも同じようなことを言った女がいたのを思い出したわ。」
「さ、3年前・・・・?」
「そう。その女はうちの社員だったけど、やはり社長の秘密に気づき、不正を追求しようとしたわ。」

「そ、その人は・・・・・どうなったの?」
「もちろん、私たちが黙ってるわけないじゃない。その女もあなたみたいにひどい拷問にかけられ、挙句の果ては身柄を白熊組に渡
されて東南アジアに売り飛ばされたそうよ。あなたもあいつみたいにシラを切るようなら、同じ運命をたどることになるわよ。」

「その女性の名前は?」
「名前?たしか・・・・茅野池・・・・、そう茅野池 明日美っていったわね。」
(ああ、明日美姉ちゃん!!! やっぱりお姉ちゃんはここで事件に巻き込まれたのね!) わたしは愕然とした。

そこへ槍手社長が現れた。
「おい、何をウダウダ話してんだ。白状したのか?」
「この子、思った以上に強情だわ。他の方法を考えた方がよさそうね、社長。」と氷見子が答える。
「よし、テグスを持って来い。いい案を思いついた。」 社長がそう言うと、すぐにゴロツキの一人がリールに巻かれたテグスを持ってきた。
いったいこれから何をされるのかとビクビクしながら見つめていると、いきなり社長は切り裂かれたわたしの下着の胸元をさらに大きく
破り開いてブラジャーを強引にむしり取ると、両方の乳房を鷲掴みして剥き出しにした。

乳首が責められる!わたしはとっさにそう思った。 人一倍感じやすい乳首はわたしの最大のウィークポイントだったのだ。
以前、握馬物産に潜入して矢良椎乃たちに捕らえられた際、この乳首を拷問されて耐え切れなかったことを思い出したわたしは、
「もうダメかもしれない」と内心恐怖におののいたが、それでもこんな卑劣な連中に屈するのはもっと我慢できなかった。
槍手社長はテグス引き伸ばすと乳首の根元にギリギリきつく巻け、思い切り引っ張って結び目を作った。
いやぁあああぁぁぁぁーーー!!痛いぃぃぃぃぃぃぃっ!!!

わたしは仰け反って悲鳴をあげたが、そんなの気にせず、社長はもう片方の乳首も同じようにテグスで縛り上げた。
続いてリールを巻き解きながら2本のテグスを長く伸ばすと、それを目の前に木の枝にかけ、枝から垂れたテグスの先に重そうなブロ
ックを縛りつけ、正面にうず高く積まれた雪の上にドサッと置いた。
「さあ、準備完了だ。おい、ストーブをこっちへ持って来い。雪の前に置くんだ。この雪がストーブの熱で溶けるにつれ、徐々にブロックが
下にさがっていき、しまいにはブロックは完全に宙にぶら下がるって寸法さ。言っとくがこのテグスは直結強度10kgで、ブロックの重さは
11kgだ。ブロックの重みでテグスが先に切れるか、それともおまえの乳首がもぎ取られる方が先か、ハハハ、こいつぁ見ものだな。」


「ほほぉ、社長、さすがアイデアマンですな。」白熊組の幹部の男がおだてると社長は満足そうに下卑た笑い声をあげた。
「雪が溶けるまでしばらく時間がかかるから、俺たちは暖かい部屋で鍋でもつつこうじゃないか。今夜はことのほかしばれるからな。」
そう言うと、わたしを一人庭に残して、一行はその場から引き上げていった。
「あの女はもう本社に帰すわけにはいかんから、そうだな、サハリンあたりのSMショーで稼がしたあとは、遠くに売り飛ばしてやるさ。
アハハハハハハハハ・・・・・」そんな談笑をしながら。

目の前の雪はストーブの明かりで真っ赤に輝いて見える。そして思った以上の早さで見る見る溶け出してきた。
ググッ、ググッ・・・と少しずつ2個のブロックの下の雪が崩れ出すと、わたしの乳首は激しい痛みとともに上に引き上げられていく。
あぁああぁぁ・・・・、うくくく・・・・ 寒さも限界を超えていたが、それ以上に乳首への激痛がわたしを責め苛んだ。
(明日美姉ちゃんもたぶんこんな残酷な拷問にかけられたに違いない。でも、お姉ちゃんのことだから、きっと耐え抜いたはずだわ。
「明日香、頑張って!!」そんなお姉ちゃんの声が聞こえてくる。 わたしだって・・・・わたしだって、負けないわ!!)

その時、吹雪の音に混じって背後から小さな声が聞こえた。
「助けに来たの。声を出さないで・・・」
わたしの後ろに隠れながらそう言ったのは、仁悶商事の同じオフィスに勤めている尾鎌田(おかまだ)さんという影の薄い男性だった。

尾鎌田さんはそっとペンチでテグスを切断すると、わたしを縛っているロープもほどいてくれた。
「さ、こっちへ来て。裏に車を乗りつけたから、それで逃げましょう。」
その頃、槍手社長たちは暖房のきいた快適な部屋で鍋をつついていたが、時折窓からわたしの様子をしっかり監視していた。
しかし再び庭に一行が戻ってきたとき、それまでわたしの姿だと思っていたのが、いつの間にか雪だるまに変わっているのを知った
頃には、わたしたちは車で遠くへ逃げ切っていた。

あの内部告発の手紙を書いたのは実はこの尾鎌田さんだと聞いてわたしは驚いた。そう言われると言葉遣いも仕草も女性っぽい
人なので、書く文字も女性の文字に似ていてもおかしくない。監査部長の推測にすっかり惑わされていたのだ。
その後、豪紋商事に戻ったわたしは、尾鎌田さんの協力も得て入手した証拠をすべて提出した。
間もなく仁悶商事に捜査の手が及び、槍手社長ほか共犯者たちが罪に問われたのは言うまでもない。
ただ残念だったのは、姉の失踪事件との関連までは警察も見出せず不問となったことである。


「そうか、引き止めても無駄ってことか。」 瀬久原課長はわたしの書いた辞表を見つめながら珍しく神妙な顔つきで言った。
「はい、いろいろお世話になりましたけど、わたし、どうしてもやらなきゃならないことができたんです。課長、本当に申し訳ありません。」
わたしがそう挨拶すると、事情を知った佐渡部長もやってきて、こっそりわたしの耳元で囁いた。
「あなたがいなくなると淋しくなるわね。でも、気が向いたらまたいつでも戻ってらっしゃい。私、諦めてないわよ。ふふふ・・・」
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あくる日、成田空港の出発ロビーは出張のビジネスマンや旅行者でごった返していた。
わたしは一人窓辺に立って搭乗のアナウンスを待ちながら、次々と飛び立っていく飛行機を見つめていた。
(明日美姉ちゃん、待ってて。きっと見つけて助け出すから。そしたら日本に帰ってまた昔みたいに一緒に暮らそうね。)
きっとこの先も想像を絶する苦難がいっぱい待っているに違いない。
でも、わたし、負けないわ!

OL戦士明日香 オフィス戦記 完
※この物語はすべてフィクションであり、登場人物および団体は実在しないものであります。